平成29年度 文部科学省 大学の世界展開力強化事業 採択プログラム (令和3年度終了)

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オンラインワークショップ「太平洋北極圏における持続可能なクルーズ産業の発展:過去の発展と将来の展望」

2021年12月8~9日、オンラインワークショップ「太平洋北極圏における持続可能なクルーズ産業の発展:過去の発展と将来の展望」を開催しました。主催・共催は北極域研究共同推進拠点(J-ARC Net)、北海道大学北極域研究センター、日露経済協力・人的交流に資する人材育成プラットフォーム(HaRP、特に専門セクション「SDGs:環境・資源開発・多文化教育」)、北極域研究加速プロジェクト(ArCS II)、北極圏大学「アジアにおける北極圏・北極圏におけるアジア」分科会(UArctic Thematic Network on the Arctic in Asia, Asia in the Arctic)、ロシア極東北極圏開発機構です。

本ワークショップには北海道、極東北極圏ロシア、オホーツク海、北太平洋、ベーリング海、チュコート海などの陸海域におけるクルーズ観光に関心を持つ研究者、公的機関、民間企業、NGOが一堂に会し、経済的・環境的・社会的に持続可能で責任のあるクルーズ観光について様々な視点で話し合いました。議題は環境保護、統合的地域管理、先住民族を含む地域のコミュニティと観光産業の関わりにおける法的・経済的規制、社会的操業許可、港湾・観光関係インフラ及びその開発に向けた政府の政策、新たな観光事業の経済的実現可能性、地域間協力、人材育成など多岐にわたりました。

なお、本ワークショップはJ-ARC Net の経費支援による進行中のクルーズ観光研究事業の一環として実施されました。また、専門セクション「SDGs:環境・資源開発・多文化教育」)ならびに北極域研究加速プロジェクト(ArCS II、特に国際政治課題 「複雑化する北極域政治の総合的解明と日本の北極政策への貢献」サブグループ4「非国家主体とパラディプロマシー」の日本側参加者が共催した以下のセミナーの結果を踏まえております。

  1. セミナー1- マルチレベルガバナンスと地域間協力:Vol.1 – The Pacific Arctic(2021年1月12日)
  2. セミナー2- 北極圏と北方圏における日露の地域間協力 - 理論と実践(2021年3月3日)
  3. セミナー3- マルチレベルガバナンスと地域間協力:Vol.2 - バレンツ地域(2021年6月9日)
  4. セミナー4- マルチレベルガバナンスと地域間協力:Vol. 3-持続可能な地域開発、国際協力、北極環境の保護(2021年9月14日)
  5. セミナー5- ロシア極東とアジア側の北極の発展に向けたアジア太平洋地域における越境地域間協力(2021年10月18日)

セミナーは日英露の同時通訳で実施され、1日目の参加者は122名、2日目は112名でした。ロシア、日本、ブルガリア、デンマーク、ノルウェー、フィンランド、米国より学術関係者(13名の学生含む)、様々なレベルの政府機関、自然保護区、民間企業、NGOの代表者らが出席しました。

本セミナーでは2つのセッションが行われました。

1日目は、持続可能な観光と環境保護について議論しました。プログラムの最初に、大塚夏彦教授(北海道大学北極域研究センター)ほか日露の大学、研究所、NGO、自然保護区を代表する9名が発表を行いました(京都大学野生動物研究センター 三谷曜子教授、知床世界自然遺産地域適正利用・エコツーリズム検討会議座長・北陸先端科学技術大学院大学(JAIST)敷田麻実教授、コマンドルスキー諸島自然保護区 Anastasia Kuznetsova管理局長、クロノツキー自然保護区 Roman Korchigin管理局次長、ヴランゲリ島自然保護区 Alexander Gruzdev管理局長、NPO チュクチ科学研究支援グループ Gennady Zelenskyグループ長、ロシア科学アカデミー生態進化研究所・ロシア海洋生物協議会Dmitry Glazov氏、全ロシア環境保護研究所 Stanislav Belikov氏, Angelina Gnedenko氏, Darya Chernyshova氏、ロシア科学アカデミー生態進化研究所 Olga Shpak氏、北海道大学法科大学院 児矢野マリ教授)。また、北海道大学北極域研究センターの田中雅人特任教授が閉会挨拶を述べました。

2日目はクルーズ産業、地域社会、地域間協力、人材育成について議論しました。プログラムは司会のユハ サウナワーラ氏、マリーナ ロマ-エヴァ氏(北海道大学北極域研究センター)による開会挨拶に始まり、日露の大学の研究者(学生含む)、研究所、政府機関(中央、地方、市町村)、NPO、民間企業、先住民コミュニティより11名の発表がありました(北海道庁総合政策部国際局国際課 佐藤知至ロシア担当課長、小樽市産業港湾部港湾室港湾振興課 水上貴文主査、ロシア科学アカデミー極東支部 経済研究所 Elena Zaostrovskikh氏、Vasta Discovery LLC Sergey Khvorostyanyy氏、NPO カムチャッカ観光協会 Georgiy Emelin氏、カムチャッカ・コリャーク民族代表 Anna Russkikh / Vulk’yn’yuv氏、北海道大学観光学高等研究センター 岡田真弓准教授、Vladivostok Sea Terminal LLC Valeryi Nagornyi最高経営責任者、ロシア国立研究大学高等経済学院 サンクトペテルブルクキャンパスValeria Galchenko氏, Anastasia Polomarchuk氏, Ekaterina Andreeva氏, Anna Veshkurtseva氏, Alina Papirosova氏, Valery Gordin氏、サハリン州投資振興局 Vasily Grudev局長、サハリン北部先住民族協会・サハリン州議会少数先住民族代表 Alexey Limanzo氏)。また、ロシア極東北極圏開発機構のRoman Sementsov常務取締役が閉会挨拶を述べました。

ワークショップでは、クルーズ産業と持続可能性に関する問題には様々な角度からアプローチ可能だということを実証しました。クルーズ産業が環境に多大な影響を及ぼすことは明らかであり、大気の汚染と温室効果ガス排出、石油流出の可能性、使用燃料の種類、騒音と海洋生物に対する影響、上陸する観光客がもたらす各地への影響に十分な注意を向けなくてはなりません。こういった問題を軽減し、乗客が目にする壮大な自然と動植物について学び、北極の生態系が地球温暖化によって直面している脅威を知ってもらうには様々な方法があります。北極ならびに北方地域におけるクルーズ産業と観光は、雇用創出、経済成長、インフラの改善にも貢献するでしょう。しかし、何百人、何千人もの旅客を乗せた船舶が突然現れることで、地域のコミュニティやインフラに負荷が掛かる可能性も否めません。

本ワークショップは、国家間・地域間・業種間の協力に基づき、地域の環境、社会、インフラの可能性と限界を理解することの重要性を強調した上で、広く太平洋側の北極において持続可能なクルーズを推進する構想の一部を担いました。港湾ほか観光関連のインフラ、環境法、先住民族を含む地域のコミュニティにおいて社会的操業許可など、基本変数(重要かつ変わりやすい要素)に焦点を当てました。このようにクルーズ産業に影響を与える要素を特定し分析した上で、関係者間で事業の実現可能性、展望、 事業化に関する議論を行うことが可能となります。

参加者からの声として、ロシア側からは知床世界遺産など日本の保護地域管理ノウハウ、環境保護における日露協力の法的枠組、クルーズ観光の主要な魅力となる海棲哺乳類の研究状況について学ぶ貴重な機会だったとの評価がありました。また、日本側参加者はロシアの魅力的な野生生物とその保護に関する最近の研究の方向について学び、中央政府と地方政府、自然保護区、観光業、港湾業、研究者、そして市民社会の努力によって極東と北方地域(特にカムチャッカとチュクチ半島)を統合的に管理する計画の全体像を理解する貴重な機会に感謝しました。

本ワークショップの開催は、北海道ならびにロシア極東、北方地域を含む関係者間でコミュニケーションを確立する最初の大きな一歩となりました。参加者の中には、様々な地域・国レベル、国際的なフォーラムやNGOのメンバーや協力者もいました(北極評議会、北極探検クルーズオペレーター協会(AECO)、日ロ交流協会、海洋遺産協会、WWFロシア、ロシア海洋生物協議会、カムチャッカ観光協会など)。本ワークショップが取り上げた議題や視点がこれらの組織に持ち帰られ、将来的に開催される国際的なイベントにおいても継続的な議論がなされることを期待します。

動画(YouTube)

1 日目:持続可能な観光と環境保護

1日目前半

1日目後半

2 日目:クルーズ業界、地域コミュニティ、地域間協力、人材育成

2日目前半

2日目後半

プログラム

詳細はこちらをご覧ください。

発表資料

1 日目:持続可能な観光と環境保護
2日目:クルーズ業界、地域コミュニティ、地域間協力、人材育成

関連情報(参加団体リスト)

日本

セントラルコンサルタント株式会社
北海道総合商事株式会社
北海道庁
北海道大学
インターナショナル・クルーズ・マーケティング株式会社(ICM)
北陸先端科学技術大学院大学(JAIST)
株式会社ジャパン・エア・トラベル・マーケティング
日本貿易振興機構(ジェトロ)
有限会社ジャパントラベルセンター
株式会社JTC(Japan Travel Concierge)
日ロ交流協会
京都大学
武蔵野大学
名古屋大学
国立極地研究所
小樽市
上智大学
東京大学
株式会社トライウエルインターナショナル
横浜国立大学

ロシア

ロシア科学アカデミー A.N. Severtsov 生態進化研究所(IIE RAS)
全ロシア環境保護研究所(VNII Ecology)
沿海地方・北極海東部 海洋港 管理局
北極・南極研究所(AARI)
北極評議会事務局
海洋遺産協会
Atomflot(ロシア連邦国営単一企業アトムフロート)
チュクチ科学研究支援グループ
コマンドルスキー諸島自然保護区
ロシア連邦商工会議所 アジア・オセアニア委員会(CCI RF)
Dealan Energo LLC
ロシア科学アカデミー 極東経済研究所(ERI FEB RAS)
極東連邦大学
極東地域水文気象学研究所(FERHRI)
極東国立水産工科大学
GoArctic.ruウェブポータル
サハリン州政府
ロシア国立研究大学高等経済学院 サンクトペテルブルクキャンパス
カムチャッカ観光協会
全ロシア漁業海洋学研究所(VNIRO)
KamchatNIRO(全ロシア漁業海洋学研究所 VNIRO カムチャッカ支部)
PINRO(全ロシア漁業海洋学研究所 VNIRO 北極支部)
SakhNIRO(全ロシア漁業海洋学研究所 VNIRO サハリン支部)
カンダラクシャ自然保護区
ハバロフスク国立経済法科大学
クロノツキー自然保護区
クリル自然保護区
M.G. Safronov ヤクート農業研究所
ロシア海棲哺乳類協議会
カムチャッカ地方観光局
北東連邦大学(ヤクーツク)
北東連邦大学(チュクチ支部)
北東国立大学
北方(北極)連邦大学
Northern Expeditions LTD
NTTロシア
ロシア科学アカデミー極東支部 太平洋地理学研究所
太平洋国立大学
ロシア科学アカデミー極東支部 太平洋海洋研究所
ロシア地理学会沿海地方支部
ロシア北極圏開発プロジェクトオフィス(PORA)
サハリン州議会 先住民族代表
ロシア極東北極圏開発機構
ロシア大統領府附属ロシア国民経済行政学アカデミー(RANEPA)
ロシア国立水文気象大学
サンクトペテルブルク国立大学
サンクトペテルブルク国立建築土木大学(SPbGASU)
サハリン国立大学
シベリア連邦大学
ロシア科学アカデミー 南部科学センター(SSC RAS)
ウラル連邦大学
Vasta Discovery LLC
ウラジオストク市役所
Vladivostok Sea Terminal LLC(クルーズ船ターミナルオペレーター)
Vostok Tour LLC
ヴランゲリ島自然保護区
WWFロシア

その他

北極探検クルーズオペレーター協会(AECO、ノルウェー)
ブルガリア海洋研修センター(ブルガリア)
North Pacific Wildlife Consulting(米国)
ラップランド大学(フィンランド)
南デンマーク大学(デンマーク)

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